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カキ　リョウドウ
　　
　魏の官僚、軍人。県の長官を務めた際、一時郭援（袁尚の将）に降り、内部から撹乱する。やがて弘農太守、後に豫（よ）州刺史となり、任地を引き締める。また、曹休が呉軍に敗れた際、これを救援する。

・司隷の河東郡出身。代々名家。
・幼くして親を失くし、貧しい生活を送る。日々、部隊の編成をして遊ぶ。祖父の賈習はこれを見て、自ら賈逵に兵法を叩きこむ。
・儒学を学び、根本と要所を重点的に吸収する。（この学習方法は、諸葛亮と同じ。）また、「春秋左氏伝」を取り分け好んだという。（「春秋左氏伝」は、儒学書の一つ。歴史書「春秋」の註釈書。）
・郡（河東郡）の役人となる。（恐らく曹操の時代。）

・絳邑（こうゆう）県の長を代行する。（絳邑県は、河東郡に所属。）
・袁尚が郭援と高幹に命じ、河東に侵攻させる。郭援が絳邑県に向かい、賈逵は城を堅守する。
・郭援は匈奴と連合し、改めて攻撃する。賈逵は防備に努める一方、郡の役所に使者を送り、献策する。「皮氏（地名）は要害です。一刻も早く占拠してください。」
・絳の長老達（民のまとめ役）が郭援と交渉。「賈逵を殺害しない」と約束させ、降伏する。
・郭援の参謀祝奥（しゅくおう）と話し、巧みに考えを惑わせる。その間に、河東の軍は皮氏を占拠。


・澠池（べんち）県の令に任じられる。（澠池県は、司隷の弘農郡所属。）
・高幹が再び侵攻する。張琰（ちょうえん）が呼応を計画し、兵をまとめる。（駐屯地は不明。）賈逵はこれと面会し、賛同する振りをする。更に、「県城を修復したい」と述べ、兵を与えられる。修復が完了してのち、張琰が来訪すると、賈逵は入城を拒否。張琰の計画は瓦解する。（なお、この頃、杜畿が安邑県（河東郡）に赴任。同じく、高幹への内応者に対処している。）

・司徒の府で掾（えん）となる。（司徒は、内政全般を担当。掾とは府の属官。）また、議郎（宮仕え）を兼任し、司隷の軍事に参与する。
・関中の馬超、韓遂が反乱。曹操は討伐に赴き、賈逵も随行する。途中で、弘農太守に任じられる。（弘農は司隷に属する郡。関中のすぐ東に位置。）

・太守となってからも、学問を怠らない。「春秋左氏伝」を読むのを日課とし、一月に一度読み終える。
・兵を徴発した際、「屯田都尉が逃亡民を匿っている」と疑う。都尉を問いただすと、不遜な言葉を吐かれたため、足を叩き折る。これをもって、一時免職となる。

・丞相府の主簿となる。（丞相は曹操。）

・曹操が漢中に進軍し、劉備を征伐する。賈逵は先に斜谷（やこく）に赴き、情勢を観察することとなる。
・途中、軍官が囚人数十人を護送中。賈逵は非常時であることを考え、重罪人一人を除き、残りを全て釈放する。（手間のかかる事務を減らした。賈逵は厳格な性格だったが、状況判断は応変。）
・その処置を曹操から称賛され、（魏国の）諌議大夫に任じられる。（諌議大夫は王の側近で、諫め役。曹操は当時魏王。）また、夏侯尚共々、軍計を司ることとなる。


・あるとき、曹操が呉征伐を考える。しかし長雨のため、多くの者が先を案じる。曹操は、「反対を言う者は誅殺する」と宣言する。しかし賈逵は、「絶対諌めなければならない」と考え、諫言の書を差し出す。
・その後、投獄され、獄吏は枷（かせ）をはめるのを遠慮する。賈逵は言う。「早く枷をはめてくれ。でないと、私が手心を加えさせたと思われる。」やがて、曹操は様子見の者を遣わし、その報告を聞いてこう言う。「賈逵に悪意はない。直ちに官に復帰させるべし。」

・当時、青州軍（元黄巾）という軍があり、曹操に服属。曹操が死去し、曹丕の代になると、勝手に州に帰ろうとする。人々は、「直ちに禁止すべし、従わなければ討伐すべし」と言う。賈逵はこれに反対する。「魏王は棺の中で、後継者もまだ正式に立っておらぬ。むしろ、この機に彼等をいたわるべき。」かくて、彼等の行く先々で、官米を支給するよう布令する。

・曹彰（曹操の子）が長安から来て、賈逵に魏王の印綬を在りかを尋ねる。賈逵は言う。「太子（曹丕）が鄴（ぎょう。魏の本拠地）におわします。貴方が印授の在りかを知る必要はありません。」


・曹丕が曹操の跡を継ぎ、魏王（魏国の王）となる。鄴（ぎょう）県は、（魏国の）首都でありながら、不法行為が多発。（曹操は法治を徹底させていたが、恐らく、その死後反動が起こった。）そこで、賈逵は鄴県の令に任じられる。翌月には、魏郡の太守に昇進。（魏郡は、鄴県を含む郡。）

・曹丕が魏王朝を開く。まもなく、曹丕は呉に親征する。賈逵は、丞相府の主簿祭酒に任じられ、呉征伐に随行する。（主簿は秘書、酒祭は筆頭。）黎陽の渡しで、兵が列を乱すと、賈逵は彼等を殺害して列を整える。

・豫（よ）州刺史に任じられる。赴任前、こう述べる。「私は六年間、（魏国の）宮廷に仕え、王朝が開かれると、外に出されることになりました。どうか陛下（曹丕）は、万民のことをよくお考えになり、天と地の期待を裏切らないでください。」（儒家らしい発言。）

・州の役所に着任。周りの者に、こう述べる。「州は本来、諸郡を監督し、取り締まるために設置された。人は州官を称賛する際、厳、能、鷹、揚（厳格で能があり果敢で積極的）の才があると言い、安、静、寛、仁の徳があるとは言わない。現在、高官は法をないがしろにし、盗賊が公然と横行している。州はそれを承知しながら、糾明しようとしない。（こんな有り様では、）天下はどうやって、正しさを取り戻すのか。」（賈逵は、厳格なタイプの儒家。規律を何より重んじる。）
・かくて、馴れ合って法を軽んじる者を調べ上げ、「彼等を全て免職させるべし」と上奏する。曹丕は賈逵を称賛。


・豫州は呉との国境地帯。賈逵は斥候をしっかり出し、武具を修繕し、攻守両方の備えをする。結果、敵は思い切って侵入せず。
・長江の二つの支流を遮り、堤を築く。また、山を断ち切り、長い谷川の水を集め、堤を築く。更に、二百里以上に渡る運河を通す。（賈逵は、行政手腕も飛び抜けていた。）この運河は、「賈侯渠」と呼ばれる。

・曹休が洞口で呂範（呉の将）と対峙。賈逵は、曹休の指揮下に入る。あるとき、諸将と共に敵軍を破る。（少しのち、両軍撤退。）将軍位を与えられる。
・曹丕が死去し、曹叡が跡を継ぐ。あるとき、賈逵は上奏して献策。「長江への直通の道を整備し、呉軍を牽制すべき」と説く。曹叡はこれに同意。


・曹休が呉臣に欺かれ、敵領に誘い込まれる。賈逵は、曹休の救援に赴く。到着前に、曹休は敗北。

・賈逵の部下が、「後衛軍の到着を待ちましょう」と言う。賈逵はこう言う。「我々は現在、進むのも退くのも困難だ。（例え後衛軍が到着しても、その後行く場所はない。）」続いて、こう言う。「敵は（曹休に対し）援軍が来ないと思い込み、追撃を続けている。我々は、その不意を衝くべきだ。彼等は必ず逃走し、道ができる。一方、後衛軍が来るのを待った場合、敵もその頃には態勢を整え、もはや隙はない。」
・その後、通常の倍の速さで進軍する。旗をたくさん立て、陣太鼓を盛んに打ち鳴らし、兵を多く見せる。ほどなく、敵は全て去る。

・曹休とは元来不仲。このときも、到着の遅れを責められたが、あくまで沈黙を守る。


・賈逵の死後、豫州の官民は賈逵を追慕し、祠を立てて祀る。
・子の賈充が跡を継ぎ、魏・晋の重鎮となる。
・陳寿は劉馥、司馬朗、梁習、張既、温恢（おんかい）、賈逵をまとめて評する。「かつての刺史は、ただ監査するだけだったが、現在その職責は重い。（劉馥らは）皆仕事の機微に通達し、威厳と恩恵が共に現れ、広い地をよく引き締めた。」

杜畿　満寵

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